はじめに

足立区様は2003年から保健所総合パッケージシステム(以下「WEL-MOTHER」という)を使い、成人保健事業や特定健診事業など保健所業務の様々な情報を管理されています。
 今回、足立区衛生部データヘルス推進課の方々に、生活習慣病対策を推進していくうえで、フレイル予防とメタボリックシンドローム予防(以下「メタボ予防」という)をテーマとしたデータ分析サービスをご利用いただきましたので、その評価や今後の展望についてお話を伺いました。

(画像左側より、日本コンピューターの斎藤、八尾坂、東、安本、足立区の山下さん、鳥山さん、池田さん、山崎さん、湯本さん。以下敬称略)

データ分析サービスにご興味がある方は、こちらをご覧ください。

データ分析サービスを利用しようと考えた経緯を教えてください。

湯本データヘルス推進課には、健康に関するデータを収集して分析を行い、施策に役立てていくというミッションがあります。約20年前から日本コンピューターさんのシステム(WEL-MOTHER)を使っているので、データはかなり揃っており、例えば、子どもの健康診断、予防接種、小学校の健康診断結果など、約30種類のデータを「集める」ところまでは出来ていました。しかし、それを使って「分析する」ところが実際には難しく、統計の知識や統計ソフトを使うスキルが必要で、我々一般の職員では苦手な部分があります。そんな時、日本コンピューターさんから分析サービスをご紹介いただき、利用を考えました。
 大量の経年データの分析は、データの取り扱いや整備作業にすごくパワーがいります。これまで当区の保健衛生システムを構築、保守いただいている日本コンピューターさんだと、我々が説明しなくても分かっていただけるのでお願いしました。

政策経営部 ICT戦略推進担当課 課長補佐(ICT戦略推進担当係長) 湯本さん (事務)

分析テーマに「メタボ予防」と「フレイル予防」を選んだ理由を教えてください。

山崎「メタボ予防」を分析テーマとして選定した理由は、2つあります。1つ目が、メタボリックシンドロームが生活習慣病の大きな要因となっていること、2つ目が、これまで足立区が糖尿病予防に力を入れてきたことです。
「フレイル予防」については、地方自治体において、令和6年度から「高齢者の保健事業と介護予防の一体化事業」が義務化されるため、肌感覚ではなく、データに基づいた事業とするため、分析テーマに選定しました。

データ分析を行う当初に懸念事項はありましたか?

山崎分析に使用したデータは、個人情報ではなく匿名化された情報 *1 でしたが、機微な情報であるため、その取り扱いには不安がありました。しかし、セキュリティ体制や管理方法等について、丁寧にご説明をいただいたことで、不安が解消されました。

データヘルス推進課 データヘルス推進係 山崎さん (事務)

湯本匿名化の方法については、分析対象となる全ての項目単位で削除・置き換え方法を話し合い、処理結果も互いに確認しあうなど、必要な対策を適切に実施できたので有り難かったです。

*1 特定の個人を識別することができないように加工した情報であり、個人情報への復元もできないようにしている情報。

データ分析サービスを利用した感想を教えてください。

湯本報告書の厚さがすごかったですね。でも、省略をせずに、分析結果を全部出してくれたので、すごくよかったと思います。データ分析結果は、人に話を聞いてもらう際に、すごく威力を発揮しますし、報告書の厚みは、こんなにすごい分析をやってもらっているという、視覚的な効果もあります。こんなにやってくれて本当に有り難いです。

池田報告書にはデータだけではなく、きちんと解説が書いてあり、サマリーとしてまとめたものも報告いただいたので、統計の知識がなくても理解できました。分析の途中の段階で、「こんな結果が出てきたので、さらにどこを掘り下げましょうか」など、何回かやり取りがあったので、こちらも何をより深く分析してもらおうかと、話し合いながら進めることができ、いろいろと考えるきっかけになりました。私もこういう分析は、今までの部署で専門的にやってきたわけではなかったので、最初から結果ありきで分析するのではなく、「こういう視点でデータを見ないといけない」とか、「ここを深掘りしていくといいんだな」など、自分自身の勉強になりました。

鳥山職員が行う分析は、予めこれとこれは関係があるのではないかという仮説を立てて実施していました。今回の分析では、大量のデータを使い、統計学的な視点で分析を深めるポイントについて繰り返し相談することができ、とても勉強になりました。

データヘルス推進課 多世代健康データ連携担当係長 鳥山さん (歯科衛生士)

山下報告書の厚さは、率直に言って驚いたのですが、分析結果を見ていくと、1個1個がとても貴重なデータでした。そして、対面で打ち合わせができて、困り感や、分かった感を共有できたのもとてもよかったです。分からないことをその場で質問して、その都度解決に持っていけたと思います。

山崎細かいオーダーにも素早く対応いただき、分析がスムーズに進んだと感じています。また、対面で同じ資料を見ながら打合せをすることで、認識のギャップが解消できたと思います。

データ分析の結果を見て、どのように感じられましたか。

池田分析結果で特に興味深かったのは、フレイルのリスク予測です。自分達で簡単に出来るものではないですし、どういう方に優先順位を高くして介入すべきなのかなど、ハイリスクアプローチで活用できそうです。大量のデータを使い、しかもいろいろな分析をした結果、出てきたものということで、個人的には、リスク予測モデルを作れたというのがひとつの成果だと思いましたし、まさにこれから活用できそうだと感じています。

データヘルス推進課 データヘルス推進係長 池田さん (事務)

鳥山フレイルやオーラルフレイルの分析では、評価できるデータが少なかったため、もう数年分データが蓄積してから分析すれば、よりよいものになると感じました。

山下身体のメカニズムのことなので、先行研究等で出ているエビデンスと大きく変わることや、すごく特異的なものが出てくることはないだろうと思っていましたが、実際に区のデータを使って分析をしてみると「本当にそうなのだ、やはりそういう風に出てくるのだ」ということが分かって良かったです。他課に分析結果を見せる際、客観的に数字で見せるというのは勿論ですが、その前にそもそも自分たちが分析結果を実感として落とし込むという経験に繋がったと思いました。

データヘルス推進課 データヘルス推進係主査 山下さん (保健師)

データ分析結果の施策への活用について、お考えや構想をお聞かせください。

山崎1つは、データの分析結果を踏まえて、健診結果通知票を年代にあわせた内容へ見直し、健診結果説明時の指導・啓発に活用していく予定です。
その他にも、フレイル予防対策として、担当部署と分析結果を共有し、訪問に関する優先順位をつけるなど、フィールドワークで活用できないか検討をしています。
エビデンスが明確になると、関係部署と連携する際にも説得力が増すことから、今回の分析結果は大変活用できると感じています。


編集後記

今回は、特定健診、高齢者医療健診、後期高齢者歯科健診等の成人保健に関する健康データを使い、フレイル予防とメタボ予防の2軸でデータ分析を行いました。 
 データ分析サービスは、分析して報告書を提出すること自体がゴールではなく、自治体の施策に活かしていただくことが目的だと考えていますので、足立区様の意向に沿った分析を心がけました。そのため、データ分析の過程では、区の施策につながるよう、何度も膝を突き合わせ、繰り返し認識あわせや意見交換をさせていただきながら、大量の経年データに対して様々な切り口から分析を行い、課題を深堀して、影響を及ぼす要因や関連性などを探っていきました。足立区職員様の持つ公衆衛生のプロフェッショナルな知見と、健診データの構造や統計の専門知識を持つ弊社の知見が重なることで、生み出すことができた分析結果だと感じています。 
 今回、一緒にお仕事をさせていただき、住民の方々の健康的な生活を支えるために、創意工夫をしながら、真摯に取り組まれている姿勢に刺激を受けました。また、健康の維持・増進という未来に向けた活動に携わることができて光栄でした。データの分析結果は、早速、新たな施策へ活用していただいていますので、施策の評価やシステム活用などの側面から、今後も引き続きEBPM *2 の推進に弊社も貢献していきたいと考えています。お忙しい中、インタビューにご協力いただきありがとうございました。 

*2 エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキングの略。合理的な根拠に基づく政策立案。

<参考:フレイル予防とメタボ予防の分析内容>

フレイル予防のデータ分析

  • オーラルフレイルや身体的フレイルへ影響を及ぼす要因分析
  • 口腔の状態等と食品摂取との関連を見つける分析
  • 将来の身体的フレイルへの影響予測 など

メタボ予防のデータ分析

  • BMI異常値へ影響を及ぼす要因および将来の予測
  • メタボ予備群以上、メタボ該当へ影響を及ぼす要因および将来予測
  • 国保資格と受診率およびメタボ予備群以上・メタボ該当との関連性分析
  • 居住区と受診率およびメタボ予備群以上・メタボ該当との関連性分析 など

データ分析にご興味がある方はこちらをご覧ください。
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