はじめに

札幌市様は2012年からWEL-MOTHER(以下、「母子保健システム」と言う。)を使い、母子保健事業の情報を管理されています。また、児童虐待予防対策の大きな柱として、2021年から児童虐待予防システム(以下、「子育てデータ管理システム」と言う。)もご利用いただいています。
今回、札幌市保健福祉局 保健所の方々に、児童虐待予防をテーマとした母子保健事業データの分析サービスをご利用いただきましたので、その評価や札幌市様における児童虐待予防対策業務の今後の展望についてお話を伺いました。

(画像左側より、保健所の横川さん、小松代さん、清水川さん、阿部さん。日本コンピューターの安本、斎藤(データサイエンティスト)、八尾坂(保健師)。以下敬称略)

データ分析や、児童虐待予防システムにご興味がある方は、こちらをご覧ください。

データ分析サービスを利用した理由を教えてください。

阿部札幌市では、2019年に児童虐待により2歳の女児が亡くなる事件がありました。以前にも児童虐待の死亡事案が発生しており、外部評価で様々なご指摘をいただいていましたが、痛ましい事案が再び起こったということで、何とか再発防止に努めなければいけない、という危機感を持っていました。札幌市の母子保健を担当する保健師は90人弱で、1年間に生まれる子どもが約12,000人です。保健師はどこに優先度をつけて手厚く支援の手を向けなければいけないか、何を見落としたらいけないのかをきちんと考えて支援をしていかなければいけません。そういったことが感覚ではなくて、統計的な数字で表れると、支援にとって有効ではないかという期待があったので、利用を考えました。
また、日本コンピューターさんとは、約10年前から母子保健システムを通した長年のお付き合いがあり、信頼関係があるため、ぜひお願いできればと思いました。

札幌市保健福祉局 保健所 地域保健・母子保健担当課長 阿部さん

小松代10年近くシステムが運用され、システム内に蓄積されたデータの量もかなり多くなってきています。ただ、ここで蓄積されたデータについて何か分析を行いたいといっても、因果関係や相関等に関する専門的な統計分析を私たちの手でやるということは、取り組むだけの余力や専門的な知識がないことから、難しいというのが実情です。そういった時に、日本コンピューターさんからデータ分析サービスのお話をいただいたので、ぜひとも利用したいと考えました。

データ分析を行う当初に懸念事項はありましたか?

阿部データの蓄積があるとはいえ、データが入力されていなかったり、各区によってデータがまちまちだったりとか、基礎的な面で大丈夫かなという不安はありました。

小松代データ分析にあたっては、当然個人情報を取り扱うこととなるので、万が一の情報流出があった場合に個人情報の流出がないかという面がやはり行政機関としては心配でした。しかし、サービスを利用するにあたって、分析時にはマスキングなどを行い個人が特定されることのない状態で処理するなど、どういった形でデータを取り扱うのかというお話についても具体的にお聞きできたので、不安を解消した上でサービスを利用させていただくことができました。

分析結果に関する感想を教えてください。

阿部今回の分析結果によって、いつも自分たちが焦点を当てて支援をしなければならないと考えていたことの裏付けが明確になったと思います。虐待は全ての人に起こりえます。今回、リスクがあって、より支援を必要としている人の要素という知識の裏付けを分析結果で出していただけたので、これまで感覚や経験でやっていた保健師の視点を、データ分析で出てきたエビデンスとして、確固たるものにできたと思います。

横川「すごいな」というのが一番の感想です。保健師が「何か気になる」とか、「おや?」と思いながら支援していた対象世帯のリスクが、データとしても裏付けられたと感じました。今後支援していくなかで「何か気になる」ことを、データの根拠に基づいて説明することができるようになり、専門職以外の人にも伝えやすくなったと思います。

清水川若年でDVや経済問題があるケースには焦点をあてて支援していこう、という心づもりはありましたが、今回、札幌市のデータをもとにこの方針が正しいことが裏付けられ、この10年分のデータは本当に宝だと思いました。専門職として、データの裏付けは大事に持っていたいですし、私達には出せない結果だったので、本当にありがたいものをいただいた気持ちです。

札幌市保健福祉局 保健所 母子保健係長 清水川さん

小松代専門職である保健師は研究熱心な方が多く、国の研究などで報告されていることを取り入れた上で母子保健事業を進めてきています。今回の分析結果で、国の研究報告と同様の結果が札幌市のデータでも挙がってきており、これまでやってきた事業が正しい方向性だったと確認できたことが、このサービスを利用してよかったと感じた一つ目の点です。もう一つは、札幌市のデータで分析した結果を把握できたので、今後、より札幌市に合わせた対応が可能になる材料をいただけた、という点がサービスを利用して良かったと感じたことです。分析結果のなかには、私たちの感覚をもとに分析しても出てこなかった意外なものもあり、専門的な統計知識を持つ方が多角的に分析することで得られた、意味がある結果だったと感じています。今後はこの結果を活かして、虐待予防の観点で母子保健事業をよりよい形で進めていければいいなと考えています。

現場職員から分析結果に対する意見や反響はありましたか?

小松代現場の保健師からは、「自分たちがシステムに入力した結果がこういう分析結果としてきちんとまとまって出てくるんだ」という、驚きが一番大きな反響でした。また、データ量が膨大なだけに、現場で支援をしている保健師が分析する時間をとるのは現実的ではないので、今回、まとまった形で結果をフィードバックできたことで、現場からは「すごくありがたい」という、感謝の声が聞かれました。

札幌市保健福祉局 保健所 小松代さん

分析結果をふまえて、母子保健システムへの追加項目などは検討されていますか?

清水川今回の分析結果を受けて、ステップファミリーの情報は必要だということになり、妊娠届出の情報に追加しました。

さらに分析してみたいテーマはありますか?

阿部リスクがあっても虐待しない人と、リスクがなくても虐待に至ってしまった人の違いがどこにあるのかを知りたいという思いがあります。対象者のここを強くしていけば、これがあれば虐待に至らずに済むというようなことが分析で分かると、支援の方向性を検討する際に役立つので、そういったことが可能であればお願いしたいと思っています。

小松代札幌市では、子育てデータ管理システムで、母子保健システムと、児童相談所や家庭児童相談室のシステムが連携することになり、虐待の種別に関する情報も連携項目になっています。母子保健の多種多様な基礎データが児童相談所や家庭児童相談室のデータに紐づいていくと、どんな要因がその後、どのような虐待の事案に繋がっていくのか、というように虐待の種別ごとの要因分析を行うことができ、また対策の検討にも活用できると考えています。

横川保健師の支援は予防的な支援であるため、支援の現場においてはその効果が実感しづらく、不安になることがあります。そのため、たとえば支援頻度の比較などの数値的な分析から、予防の支援の成果や効果が見えてくると、現場の保健師としては、もっと頑張って支援していこうという風に、モチベーションの維持にもつながるのかなと感じます。

札幌市保健福祉局 保健所 保健師 横川さん

札幌市様における、児童虐待予防対策業務の今後の展望を教えてください。

阿部これまで札幌市に足りなかったのは、連携や協働の視点でした。他の部署に引き継いだり、他の機関が関わると一歩引く傾向がある、ということだったので、この子育てデータ管理システムが情報共有のツールとして、今回導入されました。児童相談所、家庭児童相談室、母子保健の三者が同じ情報をタイムリーに共有できるこのシステムは、とても画期的で、情報共有のためにはこれ以上ない仕組みだと思います。虐待のケースを抱える担当者は孤独になりがちですが、各組織の担当者がチームとしてシステムに表示されるので、孤立しないという部分もいい仕組みだと思います。
ただ、子育てデータ管理システム上の情報をそれぞれの担当者がどういう風に理解をして支援につなげていくか、というところのオーソライズが重要です。担当者同士が電話で確認するとか、一緒に訪問するとか、打ち合わせを通じて初めて支援の方向性や、それぞれの専門性にもとづいた判断とリスクの共有ができるものだと思います。システムを使う人間の問題なので、そこをどう職員に伝えていくか、それが重要だと思っています。


編集後記

児童虐待を未然に防ぐために、私たちができることは何だろう?そのような想いからデータ分析サービスが始まりました。子育てをしていると、楽しいことだけではない。大変なことも沢山あります。そのような時、SOSをどこに挙げればいいのか分からない、大変すぎてSOSを挙げる余裕がない、SOSを挙げるという考えすらない、という方もいらっしゃると思います。子どもや保護者の“声にならないSOS”にも気づきたい。孤立しやすい方こそ、支援を届けたい。弊社は公衆衛生に携わるシステム会社だからこそ、システムに蓄積されたデータを分析することで、見えにくいそのSOSを把握できるようになりたいと思いました。

インタビューを通して、自治体の職員の方々は、日々、いろいろな想いを抱き、試行錯誤しながら行政サービスを展開されていることが伝わってきました。データ分析サービスにより、見えにくいSOSを把握し、さらにシステムを通じてそのSOSを行政サービスに繋げていただける仕組みをご提供していきたい。それは、私たちでも出来ること、私たちにしか出来ないことです。児童虐待という社会問題全体で考えると微力かもしれませんが、子どもたちの笑顔につながることを信じ、前進していきたいと思います。お忙しい中、インタビューにご協力いただきありがとうございました。


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